椿事ペット事情
日豊本線は電化、国営化からJR移行、駅の高架など宮崎市の玄関口としてボランティア視界にもランドマークとして様々なシーンの舞台裏となってきた。
週末の昼、保健所に電話した。インターネット上に保護犬の写真を掲載しているので確認するようにと、三日戻らない愚犬「大吉」の行方を窓口に尋ねると丁寧な応対である。問われた首輪の色を青と答えたが実際は、柴でオスというところは一致するので画像を見た時は「やっぱり?あいつ、またコスモス薬局に侵入したな!」としばらく前の春の日の逃走劇が再現されたんだと先ずは、行政サービスのスムーズな対応に安心。
この辺りから、4年前の宮崎ロケ映画「ひまわりと子犬の七日間」堺雅人主演モードに入ってきた。彼は捕獲した母犬の物語に仕事上巻き込まれてペット殺処分に何とか希望を持たせようと家族ぐるみで制度と格闘したという実話に基づく脚色の松竹作品。宮崎手話サークルで活躍した上野さんというナイスガイがモデルだということで真面目な映画に注目していた。
さて、2時には映画でも実際ロケされた殺処分場から保健所に戻るので、今回は登録の長女から委任状を取り、保管料金5,400円を用意してもらい引き取りに来るようにとのスムーズな流れに乗った。さすが、ペット殺処分への飼い主モラル啓蒙の世論を巻き起こした映画の舞台であるやさしい行政の一面を見た。小林稔侍が演じた課長さんは変り、主人公のモデル母犬ひまわりも亡くなったと窓口の職員は早く着き過ぎた、やや怪しい風体の私に親切である。
今になって思い起こせば、あの場所に後々、宮崎の福祉シーンを動かした「自立サービスセンター」があった記憶が蘇る。
単線なので浄土江町の踏切から取り壊された刑務所跡の荒涼とした広場をバックに民家が数件残されていて、そこを拠点としてボランティアが砦を作っていた。現社会福祉法人げんきの森冨貴子さんらは台所を借り牛乳パック紙漉き、まほろば福祉会の山下ヤス子さんと新城写植の平田寛さんらが印刷所を開設し、我々はセーロクが中心となり宮崎初のフリーマーケットを庭でやった。育成会と筋ジストロフィーを考える会とボランティアの三つ巴が回転し始めた。
80年代初頭から時を戻す。元々迷い犬だったのを近所の老婦人から引き取った「大吉」くんは女性職員から大切に扱われこちらの車に乗り移った。環境の変化の連続に息も荒い柴犬の本能のまま、二度目の出所など理解はしたかどうだか。シートを敷いた車内で帰還が始まった。夏日の白昼なのでウインドウを半開きにして駅前通りクス並木を進んだ。やれやれと思った瞬間、新たな展開が我々に降りかかった。風を受けているうちに路上で飛び出し、リードのままぶら下がる事態に後続車が止まり知らせた。車線を変えず停車して車の後方に回ると、窓から垂れた青いリードと首輪が揺れているだけで、一瞬マジックのように本体は消えていた。便意を感じて駅前の植え込みにしゃがみ込んでいた。観光地の玄関先にである。しかも首輪はすっぽり抜け、自由を得たとばかり、オフィスビル街を揚々と駆け出した。
ラッシュ時ではなかったのが幸いし、後続のバスは迷惑そうに除けてくれ再び路側帯に停め直し、先ずは観光宮崎に落下した保健所支給の餌で形成された便を委任状入れに使った封筒で掴んだ。自信はなかったが、捕獲前に気を落ち着かせるには丁度良い数分の後、通行人の歩行に見え隠れする尾を追い車で追った。
さあ、結末までもう少しかかるのでこの辺で終わる。駅にまつわる話題が、去年の不発弾処理に引き続き起こったわけだ。大吉帰還は中吉という訳。