シアターフェスティバル詳報
盛大な観客の拍手の中観劇の席を立つと。後方に甲斐祐輔が都城の観客の中で例のでかい眼を光らせて親しげに声をかけてくれた。何やら車のトラブルで後半しか観てないそうで、特に遠路まあるい劇場のために来てくれたふれ旅実行委員のために模様を詳報する。
司会のこふく劇団員男女がトップバッターとして舞台に呼んだのは、先ず自分たち。即興芝居を観せるというので、お題を客席に問うた。指された女性が「きくらげ」と言うものだから混乱は始まり、くじ引きで演出家を当てた歌う女優は、次の女が提供した「くねくね」という擬音を使ったホームドラマをスタートさせた。
目の前で展開するものはすべて即興であるのでスリリングであるが不安感一杯でかたずを飲む15分。このようにして8団体がショートな劇を披露。観客は心地よく疲労を覚えるのである。要所要所の舞台の準備時間に質問があるので、三股の演劇状況、高校演劇界の秋に向けて心意気などがわくわくさせてくれた。印象に残ったのは、小林でも質の高い演劇状況が育まれていることだった。
さて、都城商業の小気味良い空想カフェに心躍らせ、一社ミュージカル新興クラブのややブラックハートウォーミングドラマに並んで和田祥吾率いるまあるい。
都丸さんという医学生らの尽力でワークショップから派生し、永山智行監督に鍛えられた仲間。パンフには正式プロフィールとして以下。
「みやざき◎まあるい劇場」というのは、障がいの有無、演劇の経験者・未経験者、老若男女の関係なく、誰でも一緒に遊べる場所です。」
前説というのが楽しいものだが、今回は監督さん不在の為こふく女優が原稿を読み上げてスタートした。「ipadよりすごいもの」と紹介されると和田が舞台下ボスペースに上手から登場。電動3台と手押しの計4台の役者たちと大村なつみプラス⭐︎ロボ登場上、仮設舞台での演技ではなくより客席に近い舞台下でのストーリー。
早速、ipadで春の景色を撮影しようとする和田。そこへ大村が狂言回しに登場。二人とも経験は一番積んでいる。今回は野海初まあるい脚本ということで、和田のセリフにも感情移入が自然である。「ipadの機能は助かる。便利なものができたもんだ。こんな風なことができるなら僕は言葉を伝えにくいので、そんな機能があったらなあ」そこで大村、博士を呼ぶ。いつものジャケットとハットスタイルの平野今朝市は黒テープの四角ちょび髭だけで博士に成りきり助手のカオルとのやりとりが巧妙。このカオルは小林からの車椅子女性。大村なつみとの紅二点。舞台上で演技すればもっと小柄の身体から独特のセクシーさも発散させるだろう。博士がipadよりすごいものを創ったので、試運転が和田を実験台に始まる。博士のくだりは、前作全国公演も果たした「奏でる」で吉野由夏が演じたタコ博士のアナグラムで永山監督の脚本講座で鍛えられた野海らしさ。さあ、客演の非常に怪しい⭐︎ロボは出張ヘルパーアヤカの世話にも助力されてたようで、仕事としての⭐︎ロボ役には迫真のものがある。いわば、ヘルパー⭐︎ロボなのだから。しかし、博士の念じたことをスキャンして代行する機能ははなはだやっぱり怪しい。AKB48のなにがしファンを自認する和田だが、その妄想の部分をデフォルメするのが特徴だった。こりゃたまらん!と引いてしまう和田。「太もも太もも」と大声で知らせるわ、カメオ出演みたいな野海の登場には、「カッコイイ!イケメン!」と言わせる。このコクリの手違いがまったりした役者たちの素顔を通して展開する15分。
中程の席におられたご母堂は長男の初作品をどう観られたのだろうか。ちゃっかり土産のあくまきを自宅まで押しかけてゲットした私は問うのを忘れたが、母智丘の隠居農家の生活にはペット家畜が生活劇を繰り広げている大盆地、宮崎にしっかり羽を広げ飛翔する別居の息子の凱旋に安堵したことは間違いない。
つなぎの質問に、手応えを感じたか、まだ振り返れなかったか「次はソーランにも挑戦すると森奈都子が言います」とは和田。脚本を手がけたことを紹介された野海は満面の笑み。
多分観客の反応は、言葉を伝えられない苦悩をコメディタッチでカミングアウトした演技に賞賛したと思われる。耳障りの良い言葉に騙されず、私が聴き理解する力を発揮する楽しみさえ感じたのでは、一言一句聞き漏らさぬ方が得。英語やらより掴めるではないか、そして演者と同じ方向に歩いていけばいいのだと同じ生活者としての仲間意識も感じ始めている。舞台という装置こそ、以心伝心の鍛錬の場であるという大きなサークルへの思いが持てている幸せ。
さあ、後半はより心を揺るがすステージや高校生時間を演劇に費やす面々の汗光る顔を目に焼き付け、流れとしてはドローン首相官邸にシンクロしたかのSFチックなものが多くて楽しめた。わたしとまわりの関係性を面白く問いかけてくる演劇。その主体に障がいを持つ人が出演することは純文学的でもある。
なお、電動車椅子を荷台に積むのにちょうど良い高さがあったのでスロープと段差を利用させてもらった際手を貸してくださったシェ・ケンさんありがとうございました。デパート前バス停から建物が消えた中町の再起が交流プラザから巻き起こりますよう祈念しております。